第33回 抗生物質とアトピーの話(2015年12月 No.33より)

【アレルギー発症の原因の1つは「幼児期に服用した抗生物質」。
LPSを同時に摂取することで、アトピーのリスクを防げる可能性があります!】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。今日は1998年に発表された、乳児期の感染症とアトピー性疾患(アレルギー)との関係を疫学的に調査した古い論文じゃが、新しい知見と合わせて見ると大事な事を示唆しているので紹介しよう。イギリスのオックスフォード近郊の1934人について過去にどのような感染症になり、抗生物質投与を受けた事と、その後の喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患(アトピー)の発症について調査を行い、関連性を調べたのじゃ。アレルギー性疾患のなりやすさは、オッズという確率で計算するが、母親がアトピーの子供は2倍ほどアトピーになりやすく、出生児の低体重や人工乳育児では差が無いのじゃ。興味深いのは、劇的なオッズが出ているのが感染時に使った抗生物質なのじゃ。生まれてから一歳になるまでに、皮膚病でペニシリンを使った場合は3.7倍、下気道炎や扁桃炎でセファロスポリンを使った場合は10.4倍と12.8倍、泌尿器疾患でマクロライドを使った場合は23.0倍にもアトピー性疾患になりやすいそうじゃ。このような抗生物質の危険性は3歳になるとかなり少なくなる様じゃ。

最近の知見からみると、抗生物質の長期投与は腸内細菌を減少させるため、腸内のグラム陰性細菌から供給されるLPSも不足し、マクロファージの働きが低下したり、便秘が起こる事が知られておる。つまり、0から2歳までの期間に抗生物質を与えた事で、LPS欠乏症が起こり、免疫バランス(Th1/Th2)がアレルギー型(Th2優位)になった可能性が高いと考えられるのじゃ。日本でもアレルギー性疾患が激増しておるが、乳児期に感染症に罹り、抗生物質を摂取させる時に、LPSを一緒に与えてあげれば防げる可能性があるのじゃがなぁ。

文献: I Sadaf Farooqi and Julian M Hopkin, Thorax, 53: 927-932 (1998).

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

第32回 抗炎症の仕組みの話(2015年9月 No.32より)

【勘違いされることも多いLPSの働き。実は炎症抑制作用の証明されている優れた素材だと言うことが証明されています。】

皆さん。ひげ博士じゃ。御存知のように、LPSは教科書を見ても、論文を見ても、激しく炎症を誘導すると書かれておるのう。ところが、実際には、LPSを炎症部位に使い炎症を鎮めているのは御存知の通りじゃ。このLPSの効果に首をかしげる研究者は多い。そこで、LPSの抗炎症の仕組みについて全貌はわかっていないが、大いに参考になる研究を紹介しよう。
LPSの炎症抑制には、制御性T細胞 (Treg)という免疫寛容を誘導する細胞が関わっておる。このTregは炎症抑制作用が強いことが知られているのじゃが、他のヘルパーT細胞と異なり、トル様受容体(TLR)-4を持っていてLPSと反応する(文献1)。そうなると、Tregは、実は自然免疫細胞として働いておるのじゃ。TregはLPS刺激によって活性化・増殖し、IL-10という炎症を抑制するサイトカインを産生し、好中球やマクロファージを抗炎症型に変えるというのじゃ(文献2)。
教科書に書かれているLPSが炎症をおこすのは、細菌の侵入の初期の応答の事なのじゃ。一方で、起こった炎症を消火して修復に向かう引き金もLPSの重要な役割ということじゃ。教科書では、LPSについて炎症の引き金しか目を向けておらんのじゃのう。

文献1: I. Caramalho, et al., J. Exp. Med., 197: 403-411 (2003).
文献2: N. Lewkowicz, et al. Mucosal Immunology, July 2015. Doi:10.1038/mi.2015.66

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

ひげ博士

 

第31回 人工甘味料と腸内細菌叢の話(2015年6月 No.31より)

【ダイエットの落とし穴!!「カロリーゼロ」の裏側に潜む人工甘味料の正体とは・・・?!】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。今日は人工甘味料が腸内細菌叢(フローラ)を変化させて、糖尿病を発症させるかもしれないという巷で話題の研究を紹介しよう。人工甘味料は甘みが強く、カロリーが少ないことで、ダイエットに使われている食品じゃ。サッカリンやスクラロースは砂糖の数百倍の甘さを持ち、炭水化物として消化されないため、カロリーはゼロで、その上、血糖値やインスリン値にも影響を与えないと考えられいるし、安全性が確認されているとされておる。しかし、これらの一日許容量をマウスに摂取させるとブドウ糖不耐性、つまり食事で上がった血糖値が下がりにくくなる、ということが示されたのじゃ。この理由として腸内細菌叢の変化が示されておる。これらの人工甘味料を与えてブドウ糖不耐性を獲得したマウスに抗生物質を投与して腸内細菌叢の変化を抑制したり、その腸内細菌叢を無菌マウスに便移植することで証明したのじゃ。これまでも、腸内細菌叢が肥満と関連していることが知られてきているが、これらの人工甘味料も腸内細菌叢を変化させることで、ブドウ糖不耐性が引き起こされるようじゃのう。
世の中には、たくさんのカロリーオフ食品が販売されているが、ダイエットのつもりでいたのに、かえって血糖値が高くなって糖尿病になりやすくなる危険性が示唆されたと言う点で、この論文は現代社会の食文化に警鐘を鳴らしているとして注目されているようじゃ。

文献: Jotham Suez1, et al., Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gutmicrobiota | Nature 514: 181-186 (2014).

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

第30回 食事と抗菌作用の話(2015年3月 No.30より)

【絶食は病気のもと。  腸内免疫のカギをにぎる抗菌ペプチドの働き】

皆さん。ひげ博士じゃ。食事が出来る事は幸せな事じゃが、新しい食事の機能がもう一つ示されたようじゃ。食事をしないでいると、LPSに応答して誘導される腸の抗菌作用が低下するという研究結果が報告されたので紹介しよう。

中心静脈栄養というのは、口から食事を長期間取るのが難しいヒトに、1日に必要なカロリーを含んだ栄養液(輸液)を太い血管である中心静脈に投与する方法じゃ。長期間にわたって、口から食事をしないと、腸の粘膜が萎縮してしまうことが知られておる。サージャリーという科学ジャーナルに紹介されている論文では、小腸で抗菌ペプチドを出しているパネート細胞のLPSに対する反応性が、中心静脈栄養で飼育したマウスでは低下しているということじゃ。LPSが刺激してから出る抗菌ペプチドは院内感染症を予防したり、腸内フローラを維持したりする大事な作用をしておる。つまり、食事がパネート細胞を活性化して、LPSによる生体防御反応を高めている、いわゆるプライミング作用をしているのじゃな。さてさて、今日の御飯はなんじゃいな?

文献: Omata J, et al., Parenteral nutrition suppresses the bactericidal response of the small intestine. Surgery 153: 17-24 (2013).

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

 

第29回 抗生物質の話(2014年12月 No.29より)

【抗生物質は体内に必要な菌まで抑えてしまい、免疫力低下につながります。
しかし!!LPSはその作用を阻止することができる優れた素材なのです!】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。腸内細菌の働きといえばヨーグルトの乳酸菌など、腸内環境を整えるグラム陽性菌が善玉菌と取り上げられておるが、実は悪玉にされてしまうグラム陰性菌は免疫力の維持に重要な働きをしておるのじゃ。じつは、抗生物質を投与すると小腸のグラム陰性菌がいなくなると、体の免疫力が低下してしまうのじゃ。

サイエンスという科学ジャーナルに昨年の報告には、がんを免疫療法(CpG-ODN+anti-IL10)で治療するときに抗生物質を投与しておくと治療効果が著しく低下してしまうことが示されておる。この免疫療法の効果発現には獲得免疫は関係しておらず、TNF(腫瘍壊死因子)の遺伝子を発現する自然免疫のマクロファージが関係しておるが、抗生物質によって自然免疫力が低下してしまうのじゃ。さらに、制癌剤(オキサリプラチン)と抗生物質を投与しても、がんの治療効果が下がってしまうのだから要注意じゃのう。でも、心配はいらんぞ。LPSを摂取することで、抗生物質の抑制効果を回避することができる、つまり、LPSが腸内細菌の免疫賦活作用を代わってくれることも報告されておる。簡単な解決法じゃ。

文献: Noriho Iida, et al., Commensal Bacteria Control Cancer Response to Therapy by Modulating the Tumor Microenvironment. SCIENCE 342: 967-970 (2013)

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

第28回 ステロイドの話(2014年9月 No.28より)

      【LPSがステロイドの副作用を減らす!!
                マクロファージの驚くべき作用の1つ「細胞死の回避」とは??】

皆さん。ひげ博士じゃ。抗炎症剤の通称ステロイドと呼ばれている薬はそもそも体の中で作られる副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を利用したものなのじゃ。とても強力に炎症を押さえる力があるのじゃが、アトピー性皮膚炎などで長い期間使用すると、皮膚が薄くなったり、骨粗鬆症や高血糖、感染症などの副作用も引き起こしてしまうのは皆さんご存じの通りじゃな。この作用には免疫細胞がアポトーシスと呼ばれる細胞死を誘導させることが関係しておる。今日は、ステロイドによる細胞死はマクロファージにも及ぶこと、しかし、LPSで活性化しておくとマクロファージの細胞死が回避出来るという話を紹介しよう。

イスラエルの研究者がNatureグループのScientific Reportsに今年報告したのじゃが、骨髄細胞をマクロファージに分化させてデキサメタゾン(合成ステロイド)と培養すると、30%がアポトーシス(細胞死)してしまう。ところが、LPSで活性化しておくとマクロファージは細胞死をほとんど回避出来る。その仕組みとして、ステロイド抑制型の受容体がLPSで誘導される可能性が示唆されておるのじゃ。これまで、LPSは不思議とステロイドと併用しても皮膚の状態を改善する結果があることが知られていたが、LPSの有用な理由が、また見つかったようじゃのう。

文献: Resistance of LPS-activated bone marrow derived macrophages to apoptosis mediated by dexamethasone Yasmin Ohana Haim, et al. Scientific Reports 4 : 4323, (2014). DOI: 10.1038/srep04323

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

 

第27回 高血圧の話(2014年6月 No.27より)

【生命に関わる高血圧。
マクロファージは体内の水・塩にも含まれているため、血圧も調整してくれるのです!】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。おにぎりも、焼き肉も塩味が食欲を引き立てるが、取りすぎると高血圧になるので、要注意じゃな。さて、今日は体の塩分と水分もマクロファージが制御に関わっておる話を紹介しよう。塩を取りすぎると、体は浸透圧を一定に保つため、水分が血管内に入り込み血圧が高まるのじゃ。それが高血圧を引き起こし、さらに脳出血、心不全、心筋梗塞、腎不全などの病気になっていくことはよく知られておる。

さて、体の塩分はゆっくりと腎臓で排出されているが、驚くことに、マクロファージは皮膚に溜まっている水の塩分も制御していることがわかったのじゃ。体の33%が細胞外の水分じゃが、そのうち血液はわずか7%程度で、多くは間質(組織の細胞と細胞の間)水として存在しており、血液の約4倍の27%にもなる。中でも皮膚に最も間質水が多い。塩分の多い食事をすると、血液の塩分は腎臓からの排出に加えて、間質に取り込まれることでバランスを保つのじゃ。なんと、マクロファージは塩分を感じて皮膚に集まり、リンパ管を形成して間質の塩分濃度を下げておるし、マクロファージが働かないと高血圧になることがわかったのじゃ。マクロファージの生体維持能力は塩分や水分にも及んでおるのだから、守備範囲が広いのう。

文献: Helge Wiig et al., Immune cells control skin lymphatic electrolyte homeostasis and blood pressure. J. Clin. Invest.,:123, 2803-2815 (2013)

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

第26回 iPS細胞の話(2014年3月 No.26より)

【がんへの有効性も証明された   iPS細胞からマクロファージを作る研究とは?】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。世の中ではiPSの次にSTAP細胞が賑わっているが、科学とは違う方向にマスコミが騒ぐので残念なことになっておる。さて、マクロファージをiPSで作った仕事が発表されたので紹介しようかのう。iPSとは誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)の略で、遺伝子を導入して誘導した肝細胞じゃが、iが小文字なのは発明者の山中伸弥先生が世界的に流行している音楽プレーヤiPodにちなんで名付けたとのこと。お茶目な先生じゃな。

さて、これまで、iPSから神経幹細胞、視細胞、表皮細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞、肝細胞、生殖細胞など多くの種類の細胞が作られておるが、熊本大学の千住教授はiPSからマクロファージを分化させ、さらに抗腫瘍・抗ウイルス作用を示すタンパク質を持つインターフェロンβを分泌するように遺伝子導入することで、とても強力なマクロファージを作ったのじゃ。そして、免疫不全マウスのお腹の中に広がったがん(癌性播種モデル)に移植したところ、がん病巣の中にマクロファージが集まってきてがんを小さくすることが出来たのじゃ。熊本大学では臨床試験を始める準備をしているとの発表があり新聞でも取り上げられておるぞ。

儂としてはマクロファージを遺伝子導入してiPSから作らなくとも、糖脂質(LPS)を使って体のマクロファージを増やして活性化させる方が好きじゃがのう。

文献: C. Koba et al., Therapeutic effect of human iPS-cell–derived myeloid cells expressing IFN-β against peritoneally disseminated cancer in xenograft models. PLOS ONE, 8: e67567 (2013), DOI: 10.1371/journal.pone.0067567

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

第25回 受精卵の話(2013年12月 No.25より)

【LPSの新発見!!
マクロファージの活性は妊娠の手助けにもなることが証明されました。】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。マクロファージはばい菌の排除だけでなく、炎症を鎮めたり、キズの再生などもしておる。それだけじゃないぞ、受精して赤ちゃんが生まれてくる間も大事な役割を担っておるのじゃ。胎児の一時期に指の間に水かきが出来るが消えていくのが観察されるが、これもマクロファージが働いておる。今日は、受精卵の着床にマクロファージが必要なことが、オーストラリアのグループの研究により明らかにされたので紹介しよう。

このグループでは、米国で開発された、ジフテリアトキシンという毒素に結合してしまう特殊なマクロファージにしたマウスを使うことで、一時的にマクロファージを消去できるようにしてあるのじゃ。妊娠したマウスからマクロファージを除くと、なんと、子供が出来なかったのじゃな。

この研究では、マクロファージの働きとして黄体を育てる事を見つけておる。排卵すると黄体という卵巣の一部が大きくなり、そこから黄体ホルモンが出て、受精卵が着床できるようにしているが、マクロファージは黄体を大きくしてホルモンが作れるようにしていたのじゃ。マクロファージの役割は異物排除だけでなく、妊娠にも必須で、マクロファージの働きは本当にすごいのう。

文献: Alison S. Care, et al. Macrophages regulate corpus luteum development during embryo implantation in mice. J. Clin. Invest., 123: 3472-87 (2013).

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター

 

第24回 腸内細菌の話(2013年9月 No.24より)

【悪玉菌が体の健康維持に役立っていた!!
腸内の炎症を緩和するクロストリジウムとは・・・?】

 

皆さん。ひげ博士じゃ。今月号のLSIN News Letterの”最新免疫学”で紹介されているように、健康な人の便には腸の恒常性を維持する力があるのじゃ。逆に、腸内フローラが多くの疾患によって変化しておる。例えば、炎症性腸疾患の人の腸内フローラはクロストリジウムで減っておる。ところで、クロストリジウムと言えば、ウエルシュ菌と並んで二大悪玉菌として有名じゃが、悪玉なら減るのは体によいはずなのに、なんか不思議に思わんかのう。

それでは、便の中のどの細菌が良いかを調べている東京大学の本田賢也先生の研究を紹介しようかのう。報告(下記文献)によると、健常な人の便を食べさせた無菌マウス(細菌がいないように特別に飼育したマウス)を調べたところ炎症を抑制するT細胞(Treg)が強まることを見つけたそうじゃ。そこで、どんな菌がこれを担っているか調べていったところ、悪玉と言われてきたクロストリジウム属の17種ばかりが炎症抑制効果があることを発見したのじゃ。炎症性腸疾患患者でこの菌が減っておることと一致するのう。

このクロストリジウムはグラム陰性菌で酸素が無いところでないと増えない編性嫌気性細菌の一つで芽胞(熱、有機溶媒に耐性のカプセル状の菌の状態)をつくるという特徴のある菌じゃよ。悪玉菌と言われてきたクロストリジウムの一部はちゃんと体の健康を維持するように働いていたのじゃ。何度も言っておるが、なんでもかんでも善玉・悪玉とする世の中の風潮はもっと反省するべきじゃのう。

文献: Koji Atarashi, et al. Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature 500: 232–236 (2013).

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター